「糖質制限」を続けると本当に肝臓や腎臓に負担はかかる?

「アンチ糖質制限」を主張する人の中には、糖質制限を続ける事で肝臓や腎臓に負担がかかってしまうとの意見もあるようです。

その理屈と、本当に負担がかかってしまうのか?という事について検証してみました。

 

タンパク質を取り過ぎて腎臓に負担がかかる?

糖質制限時は、三大栄養素である糖質、脂質、タンパク質のうち「糖質」を大幅にカットする代わりに、脂質やタンパク質を摂取する量を増やします。

▶関連:糖質制限中のタンパク質と脂質の比率割合(PFCバランス)

そのため、糖質制限をする前と比較すると、糖質制限をしている時にはタンパク質の量も増えてしまいがち。

タンパク質からは「窒素」が生じますが、腎臓を通じて体外に排出されます。タンパク質を多く摂取すると、窒素を排出する活動が増えるため腎臓に負担をかけてしまうと言われています。

ただ、厚生労働省が発行している「日本人の食事摂取基準 2015版」の報告書の中で、「1−2たんぱく質」の項目内の「3−1 耐用上限の設定」の項目を見てみると、次のようにあります↓

 たんぱく質の耐容上限量は、たんぱく質の過剰摂取により生じる健康障害を根拠に設定されなけ ればならない。しかし現時点では、たんぱく質の耐容上限量を設定し得る明確な根拠となる報告は 十分には見当たらない。そこで、耐容上限量は設定しないこととした。

出典:http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000042630.pdf

このような内容を踏まえると、健常状態であれば特にタンパク質の上限については気にしないで良いという事になります。

ただ、糖尿病の合併症として知られる「糖尿病性腎症」になっている場合。

一般社団法人 日本腎臓学会が発行している「 エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン」を見てみると次のような表記になっていました↓

たんぱく質摂取制限は,糖尿病性腎症の進展を抑制するというエビデンスは
十分ではないが,一定の腎症抑制効果が期待できる可能性があるため推奨する.ただし,たん
ぱく質の制限量は個々の病態,リスク,アドヒアランスなどを総合的に判断して設定されるべ
きである.

出典:https://cdn.jsn.or.jp/guideline/pdf/CKD_evidence2013/09honbun.pdf

「制限」ではなくて、「一定の抑制効果」という表現にとどめている点に注目です。

また、アメリカの糖尿病学会では2013年に、糖尿病性腎症の時のタンパク質制限の必要性を明確に否定しているという事実もあります。

但し、日本で初めて「糖質制限」を取り入れた高雄病院の江部理事によれば、「腎障害がある場合、eGFRが60ml/分以上あれば糖質制限をしていもいいが、この数値未満の時は注意」とされています。

「タンパク質の取り過ぎ」については、その人の1日のエネルギー量を超えない範囲であれば特に気にする必要はないけど、「腎障害」がある(または、その可能性がある)という場合には、個別に医師に相談する方が良いと言えそうです。

 

糖新生によって肝臓に負担がかかる?

糖質制限によって、糖質の量を減らすと、血糖を補うために体内で「糖新生」と呼ばれる仕組みが活性化します。

具体的には、タンパク質から分解されたアミノ酸や、中性脂肪から分解されたグリセロール等を原料にして、肝臓内で自分の力で糖質を生み出す仕組みです。

このように「糖新生」が起こる時は、「肝臓によって合成して生み出される」という事から、糖質制限をしている事によって肝臓を酷使しているようなイメージを持つ人もいるようです。

ただ、「腎臓」の項目でも紹介した糖質制限の権威である江部理事によると、糖質制限と肝臓の関連性について次のような見解を述べています↓

肝臓は、もともと能力がたっぷりあるし、399万年間適応してきたわけですが、膵臓のβ細胞は、農耕後4000年、特に精製炭水化物後の200年、能力をはるかに超える重労働を強いられてきたわけです。

人類は700万年の進化の歴史の過程で、 飢餓との戦いは日常です。つまり糖新生は700万年間、日常的に行われていたので 肝臓は疲弊しないと思います。

出典:http://koujiebe.blog95.fc2.com/blog-entry-738.html

約400万年とも言われる人類の歴史の中で、肉系のタンパク質を中心とする狩猟期間と、炭水化物(糖質)を中心とする近代から現代の農耕期間の割合は次のようになります↓

  • 狩猟期間:農耕期間=約1000:1

このように、圧倒的に「肉食」を中心としたタンパク質の摂取量が多い期間の方が長く、炭水化物による糖質摂取ができなかったため 「糖新生」によって糖を補っていた期間の方が長いという事です。

という事で、糖質制限を行った事の糖新生によって、肝臓に負担がかかる事は考えにくく、やはり、1日の推奨エネルギー量(摂取カロリー量)を超えない範囲でのタンパク質の摂取は問題ないと考えられます。

▶関連:糖質制限ダイエットで1日の「糖質」「カロリー」の目安は?